ドン引きした女性からのご提案8
会話の流れとは別のことを言ってしまった。
「ところでなんで娘さんを連れてきたの?」
彼女は戸惑うことなく話を始めた。
「恥ずかしい話ね、私、あの子に悪いことしたのよね」
「どうして?きれいないい娘さんじゃない?」
「あの子、離婚歴が3回あるの。一度目は高校を出てすぐ。デキ婚だったのよね」
「いいじゃないの?若いんだし。早くからそうした経験があるのは悪いことだけじゃないよ」
「そうなんだけど。そのお腹にいた子が誰の子かわからないって話になって堕ろさせたのよ」
深入りしてはいけない話ということはこの時点でわかった。しかし、彼女は止まらない。
「とにかく男にだらしなくて。誰とでもって話じゃないんだけど、すぐに寝ちゃうみたいなの。後から聞いた話だけど、高校でも公衆便所みたいなことを言われていたみたいで。子供を堕ろした後、一人目とは別れたけど、直ぐに彼氏ができたわ」
私はリアクションすらできずに「きれいだからな。男が放っておかないだろ?」そう言うに止まった。
「なのかな?ちゃんと避妊させるようにはしたわよ。だからその後の結婚はデキ婚ではないんだけど、男の出入りが激しくて結局愛想を尽かされてしまうのよね。当たり前の話だけど」
私は頷くしかなかった。
「私ね、実は旦那しか知らなかったの。でも、開放的なあの子を見てるうちにちょっと羨ましくなって。それで不倫するようになったのよね」
私は既に酒を飲んで聞くしかなかった。
「同じように開放的になりたかった、というか。籠の鳥になりたくはなかったというか。ある時ね、真昼のホテル街でばったり出くわしてしまったのよ、あの子と。バツが悪かったわ。でも、あの子は堂々としていて。私に微笑んだわ。家に戻っても話かけてきたのはあの子の方。いいじゃない、遊びなよ、って。謝れば良かったんだけど、できなくて。それからは親子ではなくて女同士の会話になったのよね」
そういう訳で私のことも娘さんに話していたのか。
母娘がやがて女同士になるという話は良く聞く話ではある。しかし、このケースはあまりに発展し過ぎていて賛同できる話ではなかった。
「その話、もういいや」
などと言って寸断できれば良かった。
しかし、私は変なことを言ってしまった。
「俺の質問の答えにはなってないよね?」
拘った訳ではない。
これもまたこの場の流れの苦し紛れの言葉でしかなかった。
つくづく私は弱い人間であると思う。