ベンツに乗る女~その20
その週の金曜日に会う約束をしていた。
「会社まで迎えに行くよ」
そう言ってくれたが、ベンツで本社前に付けられるのはやはり目立つ。そこに乗り込むのはやはり勇気がいることであった。
「嬉しいんだけどさ、ちょっと目立つし。K町まで行っていいかな?」
私は彼女が執務する駅まで行くことを示唆すると
「わかったわ、待っている」
とのことがあった。
そして金曜日。
私は普通に残業して「今から出るね」とメールしてKに向かった。
「ドタキャンされたかと思った。早く来て!」
私を求めてくれる姿が伝わり、それはそれで嬉しかった。
今までならば自宅に行く週末のタイミングであった。しかし、この1ヶ月前に私はステディに別れを告げられて、単身赴任をしてから恐らく初めて2週間連続で自宅に行かなかった。
私はKに行くと駅から少し離れたコミュニティスペースの近くに停まるベンツを見つけた。
週末でもあり、少し飲んでからホテルに入りたいと思っていたから事前に繁華街近くにあって外出OKなホテルを見つけていた。
そこは翌朝、私が電車で帰れば彼女も早い時間に帰れるところであった。
私はベンツの助手席に座り、彼女はその場所を目指した。その意図は伝えていた。
「飲み足りない、なんてことにならない?」
彼女の申し出に従い、途中のコンビニで酒といくばくかのつまみを買った。
「お腹空くといけないから」
一度車に戻ったが、彼女はまたコンビニに入り、何かを買ってきたのであった。
そしてホテルに着いた。
私は即座にプッシュホンの9番を押してフロントに外出を伝えようとした。
しかし、フロントが出たタイミングで電話が切れた。横に彼女が来ており、電話を切ったのであった。
「飲みに行くのなんて止めてゆっくりしようよ」
つづく