ウソのプロフィールを書いていた女~その5
彼女は少し躊躇しつつも車に乗り込んできた。
「はじめまして」
たいがい待たされたのであったが努めて笑顔で私は彼女を迎えた。
うつむいたまま彼女も「はじめまして」と言っていた。しかし、その後にお待たせしました、のような一言はなかった。
「家は近いの?」
「今日はこんな天気なのに歩いてきたの?」
沈黙が続きそうな雰囲気を醸し出していたから、私は矢継ぎ早に質問を投げかけた。
彼女はだいたいのことに「はい」とだけ答えた。
終始うつむいているのであった。
その雰囲気からして予想はついたのであったがあえて質問をしてみた。
「これまでにサイトを通じて出会った人はいる?」
少し震えてさえいるのかな?と思う彼女からは「いません」とだけ答えがあった。
30分くらいこんな風に一方的な会話が続いた。
いや、会話ではない。単なる尋問に過ぎない(笑)
「今日はお会いするだけという約束だったからあまり時間がないんだ」
事実ではあるが、まだもう少し時間があったのではあったが脈がないということがわかったのと、いい加減他愛ない質問も尽きてきたところもあるのであった。
ここでやっと彼女から発言らしきものが出てきた。
「私はこういう出会いは無理みたいです」
まぁ、その通りなのであろう。
「そっか。今日は時間作ってくれてありがとう」
さんざん待たされた上であったが、私はそう言って別れを告げた。
「失礼します」
と言って彼女は車外に出た。
私は手を振って、車を出した。
この時になんとなく彼女が泣いているように思えたのである。気のせいかもしれないけれど…
もし、そうだとしても極度の緊張感からくる解放でそうなっていたのかな?と思った。
もう二度と会わないかな?と思ってその場を離れたのである。
午後はかなり忙しく働いていた。
夜になってステディにメールしようとプライベート携帯を開けると…サイメが着信している知らせがあった。
彼女からのものだろうな?と思ったがステディから来ているメールを優先した。
今日の雰囲気からしてそこに書かれていることは概ね予想がついたからなのであった。
つづく