ベンツに乗る女~その6
私は彼女を見つけると手を挙げて、その車に近づいた。
彼女は嬉しそうな顔をして私を助手席に招き入れた。
彼女が経営する事業は認可制のものであったが、特に当時は社会問題にもなっていたもので、ユーザーからは勿論のこと、地方自治体、具体的には東京都から補助を受けられることになっていた。
「うまいことやっているんだろうな」
それが私の感想であった。
C県のある田舎の駅からデートはスタートした。
「このあたりはあまりデートできそうな場所もないんだよね」とは彼女の話であった。
「飛行機でも見ながら話をしない?」
私は海沿いに行くことを促していた。
高級車の助手席は快適であった。
既に前回のデートで半ば心を許してくれていたのか?彼女は饒舌であった。
私は「うん、うん」と話を聞きながら、助手席に座って海辺の地を目指すように促した。
たまたまではあったが、海辺に公園があった。
そこの駐車場に車を寄せてもらった。
冬場ではあったが、日曜日ということもあって、そこには数台の車があった。家族連れが釣りをしている姿を見てちょっと羨ましく感じたね…
彼女との話は弾んだ。
国内なのか、海外なのかはわからないが、定期的に対岸から発着する飛行機を見ながら会話は弾んだ。
しかし、冬場の夕暮れは早い。
会って2時間ほどで既に日が傾き始めていた。
「明日も仕事だし、そろそろ帰ろうかな?」
私は最寄りの駅に送るように彼女に促してみた。
「私、今晩は用事もないし…家まで送るよ」
「え?いいの?お言葉に甘えるかな?」
またそこから1時間半ほど一緒に過ごしながら話をしていた。
当時、単身赴任していた家に近づいた。
「時間があるならご飯でも食べますか?」
「はい」
「無理はしなくていいですよ」
「大丈夫です」
駅の近くのコインパーキングに停めて、居酒屋に入った。
「生1つ、それと?」
彼女は言った。
「私も」
車はまた置いていくつもりなのか?
鈍感な私もそれが何を意味するかはわかったのであった。
つづく