若き頃の不倫の追憶6~呼び捨てで呼ばせる
私は最初は「奥さん」と呼んでいた。
そして彼女もまた私のことを名字に「さん」を付けて呼んでいた。その呼び方もあの当時とは違っていたのであった。
しかし、最初に二人で飲みに行った時にそれではちょっと具合が悪いな、ということになり、ファーストネームに「さん」を付けて呼び合うことにした。
一度セックスをしてからというもの、私たちは急速に距離を縮めた。
間違いなく週に一度はセックスをしていたのであった。
1ヶ月もした頃であっただろうか、情交の後に彼女が突然言い出したのであった。
「お互いに呼び捨てにしない?そして貴方も敬語はなしにしようよ」
最初は躊躇した。
何せ15歳以上も年上の女性である。
私の家は躾に厳しい家であった。
その一つとして「目上の人を敬いなさい」というのがあったのだ。
敬語を禁じられたのも厳しかったが、名前を呼び捨てにしろ、と。
これはそれまで私がしてきた所作を否定するものであった。
しかし、彼女からのリクエストである。
応えないわけにはいかない。
その日を境に私は彼女を呼び捨てで呼んだ。
彼女もまた私を呼び捨てで呼んだ。
ぎこちないところもあったが、それで徐々に親和性は高まった。少なくとも年齢というギャップは急速に縮まったのであった。
そして私たちは恋人同士になったのである。
私はこんな経験もあって、長くお付き合いする不倫相手には名前を呼び捨てで呼ばせている。
女性の中には男性を呼び捨てで呼んだことがないという人もいる。
しかし、呼び捨てで呼ばせることによって、お互いの親和性が増すのは間違いない。
私が不倫相手、特に彼女さんに望んでいるのは「心の解放」である。
今まで抑圧されていたものを私の前で解放させて欲しいと思うのである。
そのためには先ずは関係をフラットにしないといけない。
そもそも私のお相手となる世代は男尊女卑の時代に育っている。更に言えば配偶者からも抑圧されている場合も多い。男性をある意味恐怖を持って見ている場合もある。畏敬とは違う。
そのような環境を前提にすれば、形からでもフランクにそしてフラットにしないといけない。
だから先ずは名前を呼び捨てにさせるのだ。
私もある意味抑圧されて育った。
初めて心を開いたのはあの年上の女性だったのかもしれない。
つづく